箱根駅伝本選へ!!作家・池井戸潤さんインタビュー

今回、箱根駅伝での活躍を目指すランナーたちと中継を担うテレビ局の裏側を描いた『俺たちの箱根駅伝』の著者・池井戸潤さんを囲む取材会が行われました。箱根駅伝をさらに盛り上げるべく開催された取材会では、本作品に関する秘話や作家としての苦労について伺いました。ここでは取材会でのご回答を一部抜粋して公開します。

【『俺たちの箱根駅伝』あらすじ】

古豪・明誠学院大学陸上競技部。箱根駅伝で連覇したこともある名門の名も、今は昔。

本選出場を2年連続で逃したチーム、そして卒業を控えた主将・青葉隼斗にとって、10月の予選会が箱根へのラストチャンスだ。故障を克服し、渾身の走りを見せる隼斗に襲い掛かるのは、「箱根の魔物」……。

隼斗は、明誠学院大学は、箱根路を走ることが出来るのか?

一方、「箱根駅伝」中継を担う大日テレビ・スポーツ局。

プロデューサーの徳重は、編成局長の黒石から降ってきた難題に頭を抱えていた。「不可能」と言われた箱根中継を成功させた伝説の男から、現代にまで伝わるテレビマンたちの苦悩と奮闘を描く。

以下インタビュー

―執筆のきっかけ

「箱根駅伝」の初回中継を実現するべく奮闘したテレビマンの方々のエピソードを聞いたのがきっかけです。局内で企画書を出し、中継を実現するまでの過程がものすごく面白く、放送する側の苦労は小説になるのではないかと思いました。しかし、 そこから先、構想を練るのに10年ほど考えることになりました。

―時間がかかったわけ

「箱根駅伝」を描くには学生ランナーの話が不可欠ですが、舞台をどこにしたらいいかがわからなかったんです。実在する大学の陸上競技部を舞台にすると、そこで箱根を真剣に目指しているランナーのみなさんがどう思うか。エンタメ小説なので、部員同士が衝突するシーンなどを描かなければなりませんが、彼らがそれを読んだらいい気はしないだろうし、この小説の存在が彼らの邪魔をしてしまうかもしれないとも考えました。

この小説は、「箱根駅伝」というもの、また箱根を目指しているランナーたちに絶対的なリスペクトを持って書かなくてはならないと最初から思っていました。そういった条件の中で、どう描いたら良いのか、答えを見つけるまでに長い時間がかかったんです。

―池井戸さんの執筆方法は

化石を発掘するようなイメージでしょうか。元々存在しているストーリーが地中にあり、それを掘り当てていくような。ストーリーがどうあるべきなのかは、本当は最初から決まっているような気がするんですよね。その輪郭を丁寧に掘り出しながら、いかに正確にストーリーを立ち上がらせるかを探るのが作家の仕事だと思います。

―昔からそのように執筆していたのか

昔は、まっさらな紙に自由自在に書いていけるつもりでいました。でも今は、元々存在している「小説」を探しに行くイメージです。

―気を付けていることは

小説に誤字脱字や言葉の誤用といった小さなミスはよくあります。でもそれは、大きな傷ではない。小説にとっての本当の傷は、登場人物のキャラクターの破綻です。小説に登場する誰かに感情移入しながら読み進め、ずっと応援してきたのに、突然その人物がそれまでからは考えられない言動をすることがありますよね。そうするとその小説にはもう乗れなくなってしまう。

―どうしてそうなってしまうのか

なぜそんなことが起きるかというと、大抵の場合は、小説を書く前に作ったプロットどおりに書こうとするからです。たとえば事件を解決するために、登場人物を都合よく動かしてしまう、といったことです。僕は、小説に登場する人々は、本当に実在すると思いながら書いています。書いているうちに、登場人物は自由に動き始め、プロット通りにはいかなくなる。この人だったら絶対こうするよね、と思ったら、たとえ最初のプロットからずれたとしても、そう書くしかないと思っています。

―大変なこと

作家にとっての一番の恐怖は、物語が終わらないこと。話がうまく着地しなかったらどうしよう、と怖くなるときもありますが、それを恐れていると、さっきも言ったように、キャラクターの破綻が起きやすくなる。そのため、そのことはなるべく考えず、とにかく登場人物に忠実に書こうとしています。
それに、作家が展開に苦労するシーンは実は、読者にとっては、一番面白いシーンでもあるんですよね。読者がこの先どうなるんだろうと思うシーンは、書いている側も一体どうなるんだろうかと思いながら書いている(笑)。読者と同じ気持ちです。でも、何を書けばいいかをずっと考えていると、その先の展開が見えてくる瞬間があるんです。一つの作品のなかで、いくつかそういう発明があるといいですよね。

 

他にもたくさんの貴重なお話を伺うことができました。

ぜひ『俺たちの箱根駅伝』を読んで、立大の活躍を応援しましょう!

(11月8日 取材、編集・林梨紗子)

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