書架の前でポーズをとる乱歩。棚には和書だけでなく、横書きの洋書らしきものも見て取れる。

教授対談番外編  ―企画面で取り上げきれなかった内容を掲載―

今回の「立教スポーツ」編集部10月号企画面では、立大や池袋に馴染みのある江戸川乱歩特集を取り上げた。江戸川乱歩特集の中で石川教授と川崎教授の対談が実現した。その2人の教授の対談で紙面に載せきることのできなかった内容をお送りする。

江戸川乱歩が後世に残したもの

旧江戸川乱歩邸の土蔵書庫。戦後の日本ミステリ文学の出発地点と言っても過言ではない

旧江戸川乱歩邸の土蔵書庫。戦後の日本ミステリ文学の出発地点と言っても過言ではない

戦時中は検閲などで執筆行為が抑圧されるようになった。「それでも乱歩は書くことよりも読むこと、集めること、考えることに焦点を注いだ。」(川崎教授)乱歩は、ヨーロッパやギリシャのルネサンスの資料と、日本の江戸初期の資料両方をコレクションしていた。世界大戦で分断された世界でも、心の中で日本の人々とヨーロッパの人々をどこかでリンクさせていたのではないかと川崎教授は考察する。また川崎教授は、乱歩が知的なネットワークや美のネットワークを土蔵で表現し、構想していった点にも注目した。「乱歩は人間の頭の中の巨大な宇宙ということを考えさせ、書かない時でも巨人であったように思わせる人である。」(川崎教授)
乱歩は各地を転々とし、生涯で46度の引っ越しを経験した。終わりの地として池袋を選んだのは、本などを集めた土蔵が気に入ったからだといわれている。「乱歩にとって土蔵という書庫は知の集積であるとともに自分のイマジネーションを可視化する世界だったと思う。」(石川教授)戦時中の火災をみんなで防いだことにより、土蔵が焼けずに済んだ。それによって戦後多くのミステリ文献が残り、多くの若手作家が乱歩の元に集まってきた。「この土蔵というのは戦後の日本のミステリにとっては象徴的な存在だったと思っている。」(石川教授)乱歩によって作られた土蔵は若手作家に大きな影響を残してくれた。

石川教授、川崎教授が文学に興味を持ったきっかけ

オンライン対談中の様子。資料を交え、丁寧に解説して下さった。上から弊部部員田川(文3)、石川教授、川崎教授。

オンライン対談中の様子。資料を交え、丁寧に解説して下さった。上から弊部部員田川(文3)、石川教授、川崎教授。

今日まで文学研究をし続け、今回乱歩特集に協力して下さった2人の教授。文学の道に進もうと思ったきっかけを伺った。

秋田の田舎に生まれ、そこで18歳まで過ごした石川教授。母親が図書館の司書であったため、田舎住まいにとっては図書館に通うことが唯一の楽しみだったそうだ。田舎では英語を話せる人がおらず、また理系の学問はアンテナを張ることが難しい。その中で一つだけ残されていたのが、本から知識を得ることができる学問だったそうだ。「必然的に文学っていうのがとても手っ取り早いというか、文庫本はどこにでも売ってますからそれを読んでものを考えたりする事は田舎の高校生にもできたんですよね。」(石川教授)読書に没頭できる環境で育ったからこそ石川教授は文学の道に歩んだ。
川崎教授も同じく東北出身。意外なことに、もともと理系だったそうだ。家族を含めて周りの価値観が理系は文系よりも上という考え方がインプットされていた。しかし高校時代に旧東京帝大出身の先生に出会ったことが大きな機転となった。初めて純粋に学問的な先生に出会い、文学の世界に心が惹かれた。理系にとどまってほしいご両親を気にかけ、入学後に文理選択ができる大学に進学した。そして2年生の時に文転を決意した。その後多くの人との出会いもあり、雑誌や新聞紙上で文芸時評や演劇時評を執筆していた。しかしバブル崩壊を契機に自分の土台を築いていく必要性が生まれた。その頃から少しずつ学術的な書物の方に移行していったそうだ。「今こういう時代だからかもしれないですけど、本当に歴史と向かい合って読むこと、書くことを積み重ねている人たちが文学研究の中にいるなという手ごたえはなんとなくあります。だから今この道を選んだことは後悔ないです。むしろ充足感を持っていますね。」(川崎教授)高校時代に川崎教授が心を動かされた先生に出会わなかったら、川崎教授は文学の道に進んでいなかったのかもしれない。

2人の教授が担当されている授業について

今回のインタビューに協力して下さった石川教授と川崎教授は大学にて講義をされている。教授方の授業について伺った。

石川先生

「春学期に「表象文化」*と言う授業を全カリでしてます。そこで乱歩の話をしました。今年度は終わってしまいましたが、来年また何か考えたいと思っています。」

*「表象文化」:文学テキストや映像表現の分析を通じて、描かれる人間、社会、風俗、文化の諸相を考察する能力を鍛えることを目的とした授業。文学テキストの読解に力点を置き、江戸川乱歩の短編小説を取り上げ、乱歩の世界を活字から追体験することで自分の頭の中に妄想を展開させることの愉しさを学ぶことができる。

川崎先生

「去年は文学講義で乱歩をやったんですけど、今年はやらなかったんです。後期は文学と映画という形で、日本映画の中の能楽とか歌舞伎とか文楽とかそういうのを織り交ぜながら文学を学びます。それから文学の演習は、現代文学を読みます。村上春樹、川上弘美、多和田葉子などを取り上げます。映画のサブスクリクションアプリのおかげで、リモート授業であってもほとんどの学生が映画について学ぶことができました。乱歩も言ってるように、映画で一番大事なのは大画面だと思います。やっぱりクローズアップですよね、だから本当は、スマホで見るとかタブレットで見るとかではなくて、大きいスクリーンで映画を見ていただけると良いんですけどもね。そういう導きになるのかなと思っています。小論文では、乱歩やりたいという学生が毎年必ずいますね。」

石川教授は「立教スポーツ」新聞を隅から隅まで読んで下さっているそうだ。古い立教スポーツが今の図書館のデータで見ることができる。デジタル版で皆さんに見ていただけるように広報活動をしてほしい、とインタビューの最後に宣伝して下さった。

紙面と番外編のもとになった対談の全容はこちら!
石川巧教授×川崎賢子教授対談全文

(9月30日 松尾悠)
石川巧教授×川崎賢子教授対談全文

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