【準硬式野球部】最も「エース」に苦しんだ男。濱崎は献身的なエースだ
濱崎(コ4)が、打たれた。
それと同時に優勝も、消えた。
今季0勝2敗2分。もう勝てるイメージが持てなくなっていた。
昨季リーグ4勝、学生王者・中大相手には2失点完投と投げ切り文字通りエースの働きをしてきた濱崎にとって、今季の不調はあまりにも残酷だった。
勝ってないエースなんか、エースじゃない。なにより、もうマウンドに上がりたくなかった。今季優勝が消えた試合の夜、首脳陣に連絡をいれた。
「最終戦はベンチから外してくれ。それまでの2週間は全力でサポート役にまわります。」
野球が好きで、同期が好きで
濱崎の前にはいつも森田(観4)と山村(文4)の「圧倒的に上手い2人」がいた。
「アイツらを追い抜いてエースに、なんて一度も考えなかったな。単純にあの2人が好きだったからさ。俺は先発でもリリーフでもいいから、3人肩を並べてチームに貢献したかったんだよ。」
誰かに勝つことよりも、誰かと一緒に勝利に貢献することが濱崎の原動力だった。野球が好きで、チームが好きで、同期が好き。濱崎爽太郎とはそういう男だ。
エースってこういうことかと
そして今年の春からエースと呼ばれるようになった。先発を任され、自分の成績が勝敗に直結することを肌で感じた。
「プレッシャーが半端じゃないね、リリーフで投げる時とは比べ物にならないよ。森田、すごいもん背負ってたんだなって」
登板する第1戦を落とせばもう後がなくなるし、次に投げる第3戦を落とせば勝ち点が消える。ましてや先発なんて、崩れたら即敗戦につながるポジションだ。いまさらながら、歴代エースの凄みを感じざるを得なかった。「この18番、重いわ…」。普段は弱音など吐かない濱崎も、エースナンバーの重さに思わずこぼれでた言葉だった。
勝てないエースほど辛いものはない。内容は悪くなかったが、結果に出ていないことが濱崎を苦しめた。そして優勝が消えた敗戦のマウンドにいた濱崎は、ついに気持ちが切れた。
無様な姿をさらしてでも
ベンチを外れると首脳陣に連絡した後も、もちろん気持ちが晴れることなどなかった。あるのは勝負から逃げたという罪悪感だけ。優勝が消えても、変わらず懸命に練習をするチームを見てその罪悪感も増していった。
「何してんだ俺…」
気持ちが揺れる濱崎に、後輩の何気ない一言が刺さる。「濱崎さん、最終戦も頑張りましょう!」。ベンチを外れる意思は首脳陣にしか伝えていないから、濱崎の意思をその後輩は知るわけがない。結局、下を向いていたのは俺だけなのか。そんなチームの姿勢に、勝手に勝負から逃げた自らを恥じた。
「勝つために、やっぱりお前を使いたい」(古暮=現4)。信頼する指揮官であり大好きな同期からの言葉が、最後の決め手となった。こうなったら腕がちぎれても投げてやる。エースはチームの駒になることを決めた。
俺についてこいと言わんばかりにチームを引っ張り、重圧など感じさせない強心臓で勝ち星を次々に挙げるピッチャーがいたとしたら、それは紛れもなくエースと呼べるだろう。だが、負けようと投げたくなかろうと勝負所を任され、期待に応えようともがく濱崎もまたエースだ。
重圧に苦しみ、弱音を吐き、チームメイトに救われて、ボロボロになる覚悟を決める。
一人くらい、そんなエースがいたっていい。
(取材/編集 山田裕人)